2007 広島大学・中国放送共同制作番組 広島大学テレビセミナー・ラジオセミナー

広島大学ラジオセミナー 「原爆投下の歴史的意義」
最近、日本の久間防衛大臣(当時)が「原爆投下はしかたがなった」という発言をし、そして、それに呼応するかのように、アメリカの元国務次官ロバート・ジョセフ氏が、「原爆は多くの日本人の生命を救った」という発言をして注目を集めました。何故、このように原爆投下を正当化する意見が、現在堂々と表明されるのでしょうか。このセミナーでは、そうした発言の背景を考えながら、原爆投下がどういう歴史的な意味をもったのかをもう一度ふりかえることによって、それを正当化する発言に対して、あらためて原爆投下という行為の非人間性を確認していきたいと思います。さらに、原爆投下の正当化は核兵器保有の正当化であり、核兵器を廃絶しようという世論に対峙しています。
このセミナーでは、原爆投下という原点に立ち返って、そこから核兵器の廃絶に向けた展望を考えてみたいと思います。

布川 弘 (総合科学研究科 教授)
聞き手:田口麻衣 (RCCアナウンサー)
<放送のご案内>
  第1回 第2回 第3回 第4回 放送時間
放送日(毎週土曜) 11月10日 11月17日 11月24日 12月1日 午後9時−9時30分
※放送時間が変更になることがありますのでご承知おき下さい。
第1回 原爆投下は戦争の終結を早めたのか

アメリカが原爆投下を決定するに至る過程に注目します。ポツダム会談の最中に原爆実験が成功し、大統領トルーマンは原爆が戦後世界を指導するための切り札だと確信します。そして、人間が生活している大都市で実験することによってその威力を試し、世界に示そうとします。そのためには、原爆投下前に日本がすぐ敗北するようでは困るので、戦争終結を早めるどころか、意図的に終戦を遅くしたのです。

第2回 何故広島に投下したのか

当初、原爆投下目標の第1位は京都でした。それは、人口100万人を擁し、原爆の人体実験に最もふさわしかったからです。しかし、アメリカは京都を破滅に追い込むことは、日本人の反米感情を強め、戦後の関係にとって不都合だと判断し、人口35万の広島を第1目標にしました。したがって、広島が選ばれたのは、明らかに人体実験に京都に次いでふさわしい場所だったからにほかなりません。

第3回 日本は原爆投下にどういう責任があるのか

原爆投下はまさに人体実験のために行われたものであり、それ自体を正当化する理由は全くありません。しかし、非戦闘員を含む住民を無差別に殺戮する戦略爆撃を確立したのは、日本海軍による重慶に対する爆撃でした。原爆投下も戦略爆撃の一環だとすると、日本はその歴史に重大な責任を負っています。その自覚がなければ、東アジアの人々に原爆の被害の悲惨を理解してもらえるとは思えません。

第4回 核兵器のない未来に向けて

アメリカは原爆を使用しないで、日本を降伏させる選択肢を持っていました。歴史にifは禁物かもしれませんが、もし原爆を使用しないで戦争を終結させたならば、果たして今のような核軍拡が行われたでしょうか。少なくとも核保有国が不拡散を呼びかけるという矛盾は回避できたのではないでしょうか。その意味で、アメリカの原爆使用という決断は極めて重大であり、その事を深く反省することが核廃絶の一歩になります。