お酒の科学
聞き手:RCCアナウンサー 岡 佳奈 RCCアナウンサー岡佳奈
日本酒は二千年を超える日本の伝統的な嗜好品です。「麹菌」と「酵母」という異なる微生物の働きを巧みに利用しながら、その時代の知識と技術を結集して進化してきた日本の酒造りは、まさにバイオテクノロジーの発祥といえます。地元西条は名醸地としてつとに全国に知られますが、その背景には良い気候条件、良い水、すぐれた醸造技術に恵まれたことがあります。日本酒の理解を深めるため、少し科学的に眺めながら伝統的な酒造りの妙の一端をのぞいてみます。いま生命科学の研究で脚光を浴びている酵母の新しい側面について見ようと思います。このセミナーが、皆さんの日本酒への理解と愛着を深める機会になることを願います。

<放送のご案内>
  第1回第2回第3回第4回放送時間
放送日(毎週土曜)11月27日12月4日12月11日12月18日午前5時15分−5時45分
再放送(毎週土曜)11月27日12月4日12月11日12月18日深夜3時35分−4時05分
再々放送(月曜・火曜)12月29日 12月30日 午前4時30分−5時00分
再々放送(月曜・火曜) 12月29日 12月30日午前5時00分−5時30分
※放送時間が変更になることがありますのでご承知おき下さい。

第1回 お酒についてゲスト: 家藤 治幸(酒類総合研究所 環境保全研究室長)
「古い文明は必ず優れた酒を持つ」との言葉があります。世界的にお酒にはワイン、ビール、日本酒のような「醸造酒」、ウイスキー、ブランデー、焼酎のような「蒸留酒」があり複雑そうですが、酵母による発酵を主体とした醸造様式から整理すれば簡単です。そうしたお酒の分類、また酵母によるアルコール発酵の仕組みや、銘醸地西条での日本酒造りの工程を見ての解説など、お酒についてわかりやすくお話ししたいと思います。酒造りはバイオテクノロジーの源流と言われますが、その技術は今後のエネルギー問題、環境問題へも大きく貢献しうるものです。そのような可能性についても紹介します。
第2回 酒と水と環境ゲスト:佐々木 健(広島国際学院大学バイオ・リサイクル学科 教授)
西条は灘、伏見とならぶ日本三大酒どころです。西条のまれにみる中硬度名水は、酵母のアルコール発酵を弱からず強からず程よく制御し、また優れた発酵技術にも支えられて、あの良い香味とまろやかな味覚の広島酒を醸成するのです。竜王山山系の豊かな自然が、流紋岩と花崗岩の入り混じった地質と相まって、西条のあの名水を生み出します。良い環境がまさに名酒を生み出しているのです。広島大学は毎年学生参画の活動で、西条酒造組合の人たちと共に竜王山の植林及び林の手入れを行っており、地道に環境を守り、貴重な酒造名水の保全に貢献しています。
第3回 「酒粕」の機能性と利用ゲスト:杉山 政則(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 教授)
昔から酒や酒粕にヘルスケア機能性があることは体験的に示唆されています。私は、現在 文部科学省の知的クラスター創成事業のプロジェクト研究を推進し、主に、醸造副産物のヘルスケア機能性を科学的に追及しています。例えば、酒粕・焼酎粕に、メラニン色素生成に対する阻害物質や皮膚炎に対する改善効果を有する物質を見つけ、それら物質の化学構造と作用機構を調べています。最近、これらヘルスケア効果を利用した入浴剤を広島地域の醸造会社と共同開発したほか、酒粕・焼酎粕中に乳酸菌の増殖促進因子を発見し、それを活用した新ヨーグルト製造技術を広島県内の乳業メーカーと一緒に確立しました。
第4回 古くて新しい微生物「酵母」ゲスト:宮川 都吉(広島大学大学院先端物質科学研究科 教授)
酵母は日本酒を始め、あらゆる酒類の醸造およびパンの製造に利用される、私たちの生活に古くからなじみの深い、有用微生物の代表格です。酵母は単細胞で生活する微生物ですが、最新の酵母研究から高等生物の生命の仕組みの理解につながる重要な手がかりが数多く得られました。また、ガンを始めとするヒトのいろいろな病気のメカニズムを解明するヒントが得られるので、酵母は一躍生命科学研究の「花形モデル生物」になりました。"単細胞"は芳しくないことのたとえのように使われますが、この機会にぜひ単細胞生物「酵母」のイメージを一新し、「生命」の認識を新たなものとして下さい。


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