審議したのは12月31日に放送したテレビ番組「託す思い~日本被団協ノーベル平和賞受賞~」です。この番組は、授賞式に臨んだ日本被団協の箕牧智之さんの動きを中心に追いかけながら、日本被団協のこれまでの歩み、被爆者が抱えてきた苦しみ、原爆の恐ろしさ、核廃絶を願う被爆者の切実な思いを描いた番組です。
【制作担当者の説明】
ノーベル平和賞受賞で長年にわたる被爆者たちの草の根の運動が評価されました。先人たちの活動がキーワードになると感じ、その活動を描くことで日本被団協のあゆみを伝えると同時に、高齢化する被爆者の貴重な証言を残したいと考えました。高齢になられてもなお訴え続ける力強さ、そして「こんな機会はない」とノルウェーのオスロまで大勢の方が行かれ、現地で何を訴え、何を思うのか、記録したいと思い制作しました。
【委員の方々からのご意見、ご感想】
- ノーベル平和賞受賞を通過点として、次にどうつなげていくかが重要ということで、新たな動きも取材しており、非常に重要な今後に残る資料となるだろう。
- 番組の構成が強弱、長短などがあり、平面的ではないつくりで、視聴者にとって見やすいものになっていた。長きにわたる放送の記録、蓄積があるからこそだと感じた。
- 重度のやけどが原因で赤鬼とからかわれたという証言があった。当事者の実体験として聞くと、同じ知識でも響き方が違う。日本被団協の設立に至った背景や、設立に携わった方の肉声に触れると当時の被爆者の苦しみにも思いを馳せることができた。
- カリヨンは平和の象徴と言われると知り、そのカリヨンが広島の曲を奏でるということ、その音色にジーンときた。
- 被爆者の思いに寄り添う姿勢は大いにあるべきだが、閉じたコミュニティだけでの主張になってしまう気もする。一足飛びに物事が進まない一因を入れるだけでもバランス感は違ってくるのではないだろうか。
- このたびの受賞で核兵器の問題に光を当てたと答えた人がいた。同感だ。反核だけではなく、日本政府に響くような現実的なことも織り込んだ番組作りを広島の放送局として発信していってもらいたい。
- 不安定な国際情勢がある中で、国際政治の現実も見ないわけにはいかない。被爆80年の今も被爆地広島に課題として残されている。被団協が紡いだ哲学をメディアもその葛藤を向き合っていかなければならない。
- 「被爆者の責任として」という言葉があった。過去を検証し、現実的に何かにつなげていくにはどうすればよいか、いろいろな投げかけをした番組だと感じた。この投げかけに意味があると感じている。
- 原爆がテーマの番組は重い気持ちになるのでずっと見ていると苦しくなるが、平和活動はかかわる人すべての努力によって支えられているというメッセージが伝わってきた。
【番組担当者の返答】
一般市民の私たちに何ができるのか、どうすれば平和が築けるのかをみんなで考えるようなきっかけになればと思いながら制作をしました。大きな国際情勢とかではなく、普通の人がどう平和を作っていけるのかを考えることが、実は戦争防ぐ、世論を作っていくことだと言われた森滝春子さんの言葉が胸に響きます。番組構成には苦労しました。オスロでの授賞式の様子と活動してこられた先人たちを描くバランス、マスコミが多く集まる上に制限もあるオスロの取材をどのくらい盛り込むかなど、時間をかけて検討しました。ノーベル平和賞受賞はスタートであると感じています。喜びだけではなく、安全保障や広い視点、専門的な視点は持ち続けなくてはいけないと感じています。