審議したのは、12月31日に放送したテレビ番組「故郷の舞を届けに~北広島町神楽団ロサンゼルス公演~」です。アメリカ南カリフォルニアの広島県人会に所属する日系人は約800人。ふるさとを離れて暮らす人たちに広島の神楽を見てもらいたいと、北広島町の8つの異なる神楽団から手を挙げた17人が行った海外公演を追った番組です。
【制作担当者の説明】
北広島町には70を超える神楽団がありますが、高齢化や新型コロナウイルスの影響で63にまで減少しました。そんな中、G7広島サミットで各国首脳や海外メディアに披露する機会があり大変反応が良かったと聞いています。海外公演をしてはどうかと声がかかり、各神楽団に呼びかけ、実現の運びとなりました。こういった一連の取り組みを番組化して県民に広く見ていただこうとの思いで制作しました。
【委員の方々からのご意見、ご感想】
- 八岐大蛇が広い舞台からはみ出さんばかりにしている映像が素晴らしい。慣れない舞台や音響とはいえ、成功させた皆さんの努力が素直に伝わってきた。
- 広島神楽を北広島町だけでなく、県民全員が目を向ける貴重な機会になった。
- 広島に赴任して初めて神楽をみました。舞台演劇として質の高いもの。観光資源としての力がある。
- 神楽団がどのように点在するのか地図でわかればなお良かった。登場する人が多かったため、名前の紹介が丁寧であるとより理解できたのでは。
- 番組の作り手の思いや主張があまり盛り込まれておらず、素材としての神楽に焦点が当てられていた。感じ方が見る側に自由に委ねられていて、視聴後の余韻もその分長く続いたように感じた。
- 同じ演目でもスピードや舞い方、口上が違うと聞いて、当地における神楽文化の豊かさを感じた。
- 団員の息が合わないシーンは全体の文脈の中でどういう意味付けか、もう少し説明があるとなお理解が深まっただろうし、どういうアプローチで1つの形に収斂させたかが描かれるとなお深みがあったのではないか。
- 目に見えないもの、間がそろわないといけないところをどのように継承していくのか、日本がなくしつつある大事な文化的側面である。
- 違う舞を一つにするために、声に張りのあるキャラクターの濃い方がいらっしゃったのも大きな要素であり心強い。
- 舞台や演劇の世界のハラスメントは話題になるが、熱意と人権侵害の区分は難しいと思うが、お互いに声を掛け合って良い関係がつくられていることが伝わってきた。
- 思いを出さないと前に進めないというシーンや凡事徹底を解くシーンは、関わった方々の思いの変化が感じられ良かった。
- リズムや腹に響く太鼓の音、舞の美しさなど、見る側よりも演じる側に本当の魅力を感じさせるものがあるのだろうと感じていたが、その熱意が若い人たちにも息づいていることが確認できたことに得るものがあった。
- ラストのナレーションについて、伝統文化を「伝えていってくれるでしょう」ではなく、「受け継いでいかなければならないという使命感を伝えていってくれるでしょう」は、団員たちに使命感を背負わせるのは重いと感じた。
- ラストのスタンディングオベーションが苦労の展開の末の締めとしてスッと胸がすくような思いがした。広島の文化が心に訴えるものとして伝わったことの証左だ。
- スタンディングオベーションを見て、神楽は世界に通用する宝という可能性を感じ、定期的に各地に行ける仕組みがあればよい。
- 知識がない人でも夢中になれるコンテンツ。休日にどこかで見られたら広島に立ち寄ろうと喚起できるのではないか。情熱に頼るのではなく、仕事を休んでも大丈夫というような仕組みづくりが進んでほしい。
- この放送で使われなかった素材や後日談などもっと長い番組でも見てみたい。
- 舞台裏の苦労やうまくいかない部分もさらけ出しているところに感動があったように感じるし、それを取材させた神楽団と取材ができた番組スタッフの信頼関係にも深みを感じた。
【番組担当者の返答】
芸北地域の神楽団は、神社ごとに神楽団がある地域があり、神様にそれぞれの神楽団が神楽を奉納します。地域で受け継がれていくため、異なる神楽団が一緒に舞う機会はあまりなく、同じように見えてもリズムや舞の間が違い、合わせることは難しい。演目の説明が足りないところなどは番組制作者が当事者的に入って作りこみ、当事者に寄った作りになっていました。合同練習で得たものを持ち帰って自分の団のスキルアップに生かしていきたいという意識で参加されているので、お互いが高い意識で取り組み、見ている方にも嫌な感じがせず、受け入れられるような場面だったと思います。団員はプロでなく、日中は仕事を持っておられ、神楽の知名度が上がり、海外から声がかかっても仕事もそうそう休めないジレンマがあると聞きます。放送後、神楽団に入ってみたいと何人か出てきたそうで、地道な取り組みに手ごたえを感じていらっしゃいました。今後も番組などでバックアップしていきたい。