審議したのは、10月9日に放送したテレビ番組「ファジリャとマリア~ウクライナから来た姉妹~」です。2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、多くのウクライナ人が国外へ避難。広島にも10代の姉妹が避難し、2人だけの生活が始まりました。帰国までの1年間の取材をまとめ、特別番組として放送しました。
【制作担当者の説明】
避難した方々を取材しようとしたが、精神的に不安になられる方もいらっしゃる中で、取材に答えていただくことが難しかった。この若い姉妹は、初めて取材に応じていただいてから帰国されるまで我々の取材を受け入れてくださいました。中根アナウンサーが英語が堪能で、コミュニケーションをとりながら一緒に遊びながら、女性記者と共に映像を積み重ねた番組です。また、姉妹の母親も来広して、戦時下で生きる母親の率直な思いも伝えることができたこともよかったと感じています。
【委員の方々からのご意見、ご感想】
- 専門家による戦況や見通しについて分析的な解説を多く見てきたが、そういう内容とは一線を画し、戦争の影響を受けたウクライナの国民の中から一家族に焦点を当て、姉妹にありのままに体験を語っていただく証言型の内容で、意義深い、重いものだった。ローカル放送局ならではの仕事で世に知らしめる意義がある企画だった。
- 長い取材期間を経て2人を原爆資料館に誘う関係性ができていたことは想像がつくが、いまだ戦火の中にいる二人に被爆の実相を展示した資料館に制作者側が誘うのは配慮に欠けているように感じた。
- 局や記者などの意見は省いて、姉妹が話すことを聴いて、ドキュメンタリーとして放送するような内容のほうがよかったのではないか。
- クリミアが侵攻されたためにキーウに移り、ウクライナ侵攻を受けた姉妹から出た「戦争が今起こるのか」という言葉は不自然に感じた。その前後には別の文脈があったのではないか。
- ウクライナを逃れて広島に来てからの姉妹の日常生活を丁寧に描いていた。のちに来日した母親から開戦時の状況が語られたことで、姉妹の日常がいかにして奪われたかという対比がよく出ており、効果をあげていた。
- 姉妹の母親がウクライナでどのような生活をしていたかもう少し詳しく聞きたかった。
- 戦争の実相を当事者が語り、全体として反戦のメッセージを感じました。
- 姉妹の母親が統計的な話ではなく、個人の体験として戦争を伝えたいという言葉を発していたが、厳しい安全保障の世界の状況の中においても、伝えることの原点をおくということは広島のメディアとして大切なことなのだろうと感じた。
- ウクライナの国旗をもって歌を歌うシーンは、愛国心とロシアに勝つという戦意の高揚と切り分けが非常に難しいシーンだと感じる。
- ウクライナの人が避難をしているのはニュースなどで見たことはあるが、その人たちがどのように不安を感じているかは、そう簡単には出てこないという意味で、関係づくりの力が大きいと感じました。
- 姉妹が広島でどんな人とどのようにつながりどんな会話が生まれたかを見ることができるとよりよかったのではないか。
- 気になった表現はなかったが、逆の正義もあるため過度に攻撃しなかったのは良かった。
- 帰国した姉妹とその母親はお元気だろうかと気がかりだ。
【番組担当者の返答】
資料館には2人も行きたいと言ったと聞いていますが、ウクライナの戦況が変化することに彼女たちの心境も変化したと聞きました。心境の変化の過程をすべては説明ができませんが、気持ちが揺れていたと理解いただきたい。首都を空爆され地下壕に避難するような戦争をだれも止められないという、姉妹の世界のとらえ方から出た言葉だと理解しました。こういう境遇に直面した人の心情をダイレクトに聞く機会はあまりないので、考えを巡らせていただけたらありがたい。中根アナウンサーは語学力を生かして、これからも広島から世界を感じる取材をしてもらおうと考えています。ウクライナからの避難者は東京などではサポート組織があるようだが、地方に来ると孤立無援に近い状況の人が多い。雇用した先も線を引かれていたことを受け止めて取材をさせていただきました。3人は10月下旬に無事にウクライナに入ったと聞いている。機会があればその後を伝えたい。
【その他】
2023年度上半期のテレビ番組種別報告をし、了承されました。