審議したのは、1月28日に放送、3月26日に再放送したテレビ番組「一人暮らしだけど1人じゃない 102歳の哲代さん」です。尾道市でまわりの人たちに助けられながら一人暮らしをしている102歳の女性に密着したドキュメンタリー番組です。
【制作担当者の説明】
哲代さんは、夫とは20年前に死別して1人暮らし。朝の味噌汁を作るシーンなど日常をつなぎ合わせて描こうと考えました。母親がこうなったら、自分の続きとして、自分の関係する人間の将来として重ねて見ていただきたいという思いがありました。高齢化していくことをどのように受け止めるか、多くの人が不安に思う人生100年時代の灯火のような存在になれたらと思い、制作しました。
【委員の方々からのご意見、ご感想】
- 100歳まで生きたいと考える人が2割しかいないと言われる時代に、こんなふうに100歳を迎えられるのなら自分もそうなりたいと思う人も多かったのではないか。
- 哲代さんの笑顔とユーモアが印象的。地域や親せきの人は一人暮らしの高齢者だから気にかけているというよりも、哲代さんと関わることで結果として楽しさや幸福感のようなものを得ているのではないか。
- 哲代さんが得意の運動会のリレーの話を始めたときのカメラを止めたというテロップはお笑い芸人でもないのに少しやりすぎのようにも感じたが終盤になればなるほどほのぼのとさせられ、テロップがアクセントになっていたようにも感じた。
- 子供について聞いた場面は、質問した人と哲代さんとの間に関係性が築かれていることは十分伝わったが、今の社会観からするとデリカシーに欠ける質問にも感じられた。
- プレゼントした洋服を忘れていたシーンについて、人間関係があってのことだろうし、素のままの哲代さんを描きたかったのだろうと思うが、意図的な構成があったのか気になった。
- 地域、家族のコミュニティ崩壊が問題になる中で、心身ともに健康であり続けるためにも長い目で見ると人と人とのつながりは大切だと思い知らされたように感じました。
- あまり聞かなくなった古き良き広島弁を聞きました。
- ナレーションが哲代さんに合わせた柔らかい感じで、一緒に柔らかい気持ちにさせていただいた。
- 哲代さんの暮らしは中山間地域であるからこその豊かさを感じた。広島市内であのような形は厳しいのではないか、自らを考えると20年後、30年後は暗くなる感じがしました。
- 妹の桃代さんは意思表明ができない中で、親族の許可は取っていたとしても、本人がどのように思うかを考えて映し方の検討があったか知りたい。
- 哲代さんと桃代さんの距離を保った対面はコロナ禍の時代を切り取る価値のある映像と感じました。
- 長尺の番組で、ユーモアの豊かさ、言葉のセンス、的確な言葉遣いも含めて映像と記録することの力の大きさを感じました。
- 80歳の教え子がいて哲代さんは先生のまま、地域の中での学校の関係性の良さも出ていた。
- さようならの歌を何十年ぶりかに聞いた。ドキュメンタリーは偶然の言葉やシーンをつなぎ合わせる作業でもあろう。足しげく通った成果ではなかろうか。
【番組担当者の返答】
ドキュメンタリーで「カメラを切ってしまった」とテロップをかける手法について、制作側にも反省がにじみ出る言葉で、視聴者は一度しか見ていないのに止めるという強さで印象付けようとしました。このエピソードは哲代さんにとってとても大切な思い出でコミュニケーションの一つのツール、見せ方だと理解しています。誰でも持っている、自分はこういう人だという思い出として私たちが受け止めることが大事です。現代の価値観には合わなくても、この年代の女性にとっては重く負い目となるようなことの表現について考えました。子どもがいない独身の30代の男性が哲代さんと関係性を築き質問した大切なシーンでした。哲代さんがつらいことを乗り越えるためにもユーモアをもってやってきたということを見ていただきたかった。意図的、仕込みかについては、ディレクターは取材する時に、あらゆるものを仕込みます。どういうものが撮影できるかを考えて自由意思に任せあらゆる方向から撮影をします。
【その他】
2022年度下半期のテレビ番組種別報告をし、了承されました
広島大学キャンパス国際化担当副理事でダイバーシティ&インクルージョン推進機構の川合紀宗教授が委員長に選任されました。