今回審議したのは、8月6日午前10時35分から放送したテレビ番組「原爆ピアノ」です。
毎年8月6日の原爆の日に放送する特別番組の一つです。73年前広島に原爆が投下されたとき、爆心地近くの家庭にあったピアノを修復し、コンサートなどに使用している調律師で被爆2世の矢川光則さんの活動を追った番組です。
【番組担当者の説明】
去年12月、ノルウェーのオスロでノーベル平和賞の授賞式がありました。授賞式の翌日に開かれたノーベル平和コンサートは、ノルウェー王室なども出席して2万人規模で行われました。そこで、演奏されたのが被爆ピアノです。音色とともに、被爆ピアノの存在も世界に知られることになりました。この取材をきっかけに、被爆2世で調律師の矢川さんの活動に興味を持ち、取材をすることにしました。制作にあたって心がけたことは、できるだけ表現をわかりやすくしたい、中学生にも理解できるような表現です。被爆ピアノを矢川さんに寄贈した被爆者やその家族の物語と矢川さんが被爆ピアノを携えて全国的に行うコンサートを取材しました。番組内で使用した音楽は、すべて被爆ピアノで演奏された音色です。
【委員の方々からのご意見、ご感想】
- ノルウェーのコンサートの模様がなかったのが残念でした。あれば、もっと深まったように感じます。
- 私は、「被爆ピアノ」と思っていたのですが、番組のタイトルは「原爆ピアノ」になっています。これはどんな意図があったのか知りたい。
- 被爆したピアノというものや戦時中のピアノの価値を知らなかったので、今の暮らしとの違いが見えて興味深かった。
- 当時のピアノは、高価だったので、買うと家族の一員のようになる。被爆ピアノは、その家族の一員が生き抜いた人生を振り返るような感じがして感動しました。
- 被爆したピアノに何が語れるのだろうか、ピアノの損傷、傷ついてガラスが刺さったところが原爆を語るのか、平和活動のBGMとして流れる曲を被爆ピアノで演奏するというのなら考えられるが、平和活動にこのピアノがメインになる得るか疑問に感じています。
- 被爆したピアノが当時、どんなに大切なもので、どのようにして矢川さんのところに来たのか、その背景や説明をもう少し詳しくしてほしかった。
- 広島市内の地名に疎い人には伝わりにくいので、もっとテロップを長く出してほしかった。
- 被爆ピアノの美しいメロディに乗せて映像が流れたが、平和公園で、平和の歌を歌う伴奏に被爆ピアノを使うということは、平和活動の一つの素材になると感じました。一方で、番組タイトルが出るまでの時間が少し長かったという印象がありました。
- ベートーベンの「悲愴」を第二楽章全部使って、映像をつないでいたところが見事でした。
- 広島の人は、原爆の恐ろしさ、被爆の辛さをよくわかっていますが、県外の遠くの人はよく知らない。同じように、沖縄戦の苦しさや沖縄の人たちの苦労を我々は実感として理解していない。そういったときに、この広島と沖縄を結びつけるコンサートができたということに感銘を受けた。こういう結びつきがこれからも生まれていけばいいと感じました。
【番組担当者の返答】
- ノルウェーの映像は著作権料のハードルが高く、再放送や2次利用など、多くの人に見てもらおうと考えたときに番組には入れないことにしました。
- 矢川さんや元ひめゆり学徒の女性たちと話す中で、その女性たちが「原爆ピアノ」という表現をしていた。「広島から原爆ピアノの音が聞ける」と言っていたのが印象的だったこと。また、福島の原発事故で被曝ということがクローズアップされたとき、原子爆弾による「爆」ではなく、原発事故による「曝」を使われることが多いと聞きました。改めて原子爆弾による被害を受けたピアノという意味を込めて「原爆ピアノ」としました。